一番唐紙


“一番唐紙”という名称は、書家にとって、昔懐かしい響きをもっています。 中国の文化大革命半ば頃から、だんだんとその姿を消していきました。 1998年5月、一番唐紙を求めて、この紙の産地といわれている、福建省長汀縣 の山あい深くに位置する、ある部落を尋ねました。 ところが、一番唐紙は、既に全く漉かれてはおらず、その原因は、あちらこち らに散在する、荒廃した漉き漕を見ても、わかりました。 交通の便が良くなるにつれて、地元の若者は出稼ぎに大都市に移住し、現在で は、家庭の事情等で家を離れられない老職人しか残っておらず、しかも、書道 用紙を漉くよりは、品質の要求をされない、大量に売れる迷信用紙(中国の仏教 や道教で、葬儀や先祖供養等などの時に燃す紙)を漉くほうが儲かるという考え 方が主流になっているようです。 本来、一番唐紙は、決まった季節に、決まった種類の竹のみを原料として使い、 原料の処理や、紙漉きの技術も厳しく要求される為、時代の流れの中で、いつし か二番唐紙(通称:毛辺)しか漉かれなくなってまいりました。 「高くても買いますので、是非、復活生産してくださいませんか」と、弊社取 引先の左さんを説得しながら頼んでみたところ、「今年は既に原料を採る季節が 過ぎていますので無理ですが、来年、一番唐紙の原料になる竹を捜してみて、 また、昔一緒に仕事をしていた職人を再び、呼び集めるのにも時間が掛かります ので、早くとも再来年になると思いますが、少し作ってみましょう」との承諾を 得ました。 残念ですがその後も出来たとの情報が有りません、少し気長に待ってみようと 考えて居ります。


山一面に生い茂る、現地の竹。 紙漉きの原料として、昔から 使われてきました。 一番唐紙の原料となる竹は、 若すぎても老いすぎても良く ない為、毎年の「谷雨」 (中国農暦の季節名、公暦の 4月頃)の少し前に、経験の ある職人さんが一本一本、 念入りに確かめながら採る。

採った竹は、石灰水の入った 池に2ヶ月程浸けられ、腐ら せる。原料処理の専門家 (単に経験年数の長い経験者と いうだけではなく、微妙なツボを おさえ、コツの分かる職人だそう です)が毎日、石灰水の濃度、 腐らせている竹の色等をチェック、 管理し、原料の「熟度」を把握し ておきます。

2ケ月程過ぎた頃、山の水を引い てきて、石灰を流します。 綺麗な微酸性の、山の天然水を、 太い竹のパイプで引いて来て、 竹に付着している石灰が完全に無 くなるまで流します。

皮を剥いて、柔らかくなった白 い部分だけを原料に使う。 普通の毛辺と違って、青い竹の 皮が少しでも残っていると紙質が 違ってきますので、必ず一本一本 白い部分の繊維の品質をチェック しながら皮を剥いて行きます。

木製の漕に入れて、ドロドロになる まで足踏みする。 機械か臼で原料を処理する方法も 採り入れられてきましたが、一番 唐紙の場合は、竹の繊維を傷めない 為に、必ず原料がドロドロになるま で人間が足踏みして処理します。

二人一組で紙を漉く。 気の合う二人でないと、うまく コンビが組めないそうです。 弊社の要望に応えて、日本規格に カットできる大きさの原紙を漉い てくれましたが、小さい頃から コンビを組んできたお二人にとって も、サイズが変わるだけで大変 だったそうです。 通常の原紙サイズは62x140cm です。




漉いた紙は壁に張りつけて天日に任せての自然乾燥なので、例年なら湿気の多い梅雨の季節で、 まだまだ出来てこないところが、今年は雨が少ない為、予定より早くに第一回目の納品ができるそうです。 自然乾燥の書道用紙が無くなってきた現代には、貴重な逸品です。 本場の産地、福建省では、少なく見積もっても、25年間は、一番唐紙を漉いていないそうですが、 残念ながら今年は、竹の小年(偶数年は小年、奇数年は大年だそうで原料を多く採れる)ですので、 よい原料が少ない為、大量にはご提供できませんが、良い情報が入りましたら掲示させて頂きます。
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